自分で考え、表現する力を育てる、聖徳学園のSTEAM教育

みなさまこんにちは。清水葉子です。

先日、東京都武蔵野市にある聖徳学園中学、高等学校の情報の授業を見学させていただくとともに、学校改革本部長の品田健先生、CISO(最高情報セキュリティ責任者)の横濱友一先生にお話をうかがいました。

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お話をうかがった品田先生(左)、横濱先生(右)

今回見学させていただいたのは、高校2年生、3学期最初の情報の授業です。3学期は、総合の授業で取り組んでいる途上国支援について各自でポスターにまとめていきます。

授業の冒頭、品田先生より、動画の紹介がありました。隣接しているのにほとんど交流がなく、お互いをあまりよく思っていないインドとパキスタンの人たちの心の距離を、ある「しかけ」を使って近くする、というものでした。

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続いて、個人でポスター制作を進めていきます。使っているのはPagesという、文字や写真をレイアウトできるアプリケーションです。今回はA1サイズのポスターを制作するということで、品田先生より用紙サイズ設定の説明がありましたが、生徒さんたちはPagesは使い慣れているということで、それ以外の部分では質問も少なく、それぞれに作業を進めていきます。

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 情報の授業が行われているのは、STEAM棟1階のLearning Commons。
学校内はもちろん、学校の外からも見通しの良い、オープンな場となっています。

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この空間はグループワークにも適していますが、今回の授業のような個人ワークでも、1人で集中したい生徒と2-3名で相談しながら作業を進めたい生徒が少しずつ椅子を動かしてそれぞれに快適なスペースをつくっているのが、興味深かったです。

 

正解のない学びに取り組み、枠組みを壊す力をつける

横濱先生によると、高校の情報の授業のほとんどは、英語や総合学習など、別の授業で学んだ内容を、情報の授業で様々なツールを使って表現するという形で進められるそうです。
「情報の教科書にも資料が掲載されていて、それを使った分析や、グラフ化はできるのですが、生徒が掲載されている資料に興味を持てないことが多く、また、同じ資料を使うと同じ結果=正解を求める形になってしまいますので、それならば別の資料を使って授業を進めようと、現在のような形にしています(横濱先生)」

物理の授業で学んだ内容をもとに、テスト問題を自分たちでつくってみる、世界各国のあいさつ動画を自分たちでつくってみるなどの課題があるそうですが、成果としてはそれぞれのものができあがるため、生徒さんたちの工夫や表現のしがいがある、ということですね。

課題に個人で取り組むか、グループで取り組むかは、都度、課題に応じて変わるそうです。中学では、人の話の聞き方、話し合いの仕方などについての基本を学び、グループワークを通して、自分の行動が相手に影響を与えることを学んでいくそうです。例えば、相手の話に相槌を打ったり、自分の意見をはっきりと伝えることで、お互いを認め合う雰囲気をつくることも、表現教育において大切なことだそうです。また中学のICT系の授業では、美術の授業とのコラボレーションで映像をつくるといったこともされているそうです。

「中学のICT系の授業では、小学生時代に知らずしらずのうちに身についてしまったかもしれない『正解を探す学び方』から脱却し、正解のない学びに取り組み、色々な枠組みを壊すような力をつけてほしいと思っています。本校内にはそれほどルールはないのに、生徒が勝手にルールを意識してしまうこともあるんです。例えば、Learning Commonsは飲食禁止ではないのに、生徒のほうから『ここは飲食禁止ですよね』と言ってきたりします。そうではなく『先生、ここでお弁当食べてもいいですか?』と聞けるようになってもらいたいんですよね(横濱先生)」

生徒さんが学びの姿勢を変えるには、先生の関わり方も重要になってくるのではないでしょうか。「我々教師は、教えすぎないことを頑張っています。教師側からの説明の量が多いと、どうしても教師は授業をやった感を持ってしまうのですが、生徒が学べたと感じる授業は、教師からの説明は最小限で、生徒が自分で考え、学び進められた授業なんです。この経験を繰り返すことで、教師も教えすぎないほうが良いということを感覚的につかみ、しだいにスタンスを変えられるのではないかと思います(品田先生)」

 

自分の発想を実現するのにプログラミングが役立つかもしれない

授業の中でプログラミング教育は行われているのでしょうか。

「中学と高校、それぞれに学習の機会があります。まず中学では、スフィロという球形のロボットを使った授業があります。ここではビジュアルコーディングではなく、生徒に自分でコードを書いてもらいます。そのほうが英語の勉強にもなりますし、生徒達も心が動くようです。来年度は授業全体も英語で進めようと準備中です(横濱先生)」

「高校では、1年生の3学期に、Swiftという言語を学びます。Swiftを段階的に学べるアプリがあるので、授業の5時間を使い、それぞれが自分の進度で、アダプティブラーニング形式で学び進めます(品田先生)」

聖徳学園でのプログラミング教育の目的は「自分の発想を実現するのにプログラミングが役立つかもしれない」と生徒たちが考えられるようになることだそうです。生徒たちがこれからの人生でやってみたいことが出てきた時、「やりたいけど無理」ではなく「どうしたらやれるだろうか」と考えてほしい。そのために情報の授業では、新しいアイディアで社会に貢献する人や、お互いに技術やアイディアを持ち寄って何かを成し遂げた方たちの紹介をしたり、今回の授業の冒頭のように動画を見る時間をつくったりされています。

「プログラミング学習やプレゼン資料づくりなどの作業を進めていると、つい、技術の習得に集中して視野が狭くなってしまうので、そもそも何のために学んでいるのか、これを学ぶ目的は何かについて思いをはせられるよう、情報提供をし、それについて考える時間を授業内につくっています(品田先生)」

 

生徒の心が動いたり、新しい表現方法を身につける機会が、聖徳学園の6年間の情報、ICT系の授業の中には色々なスタイルで数多く設けられています。「その中で何を面白いと思うかは生徒によって違うので、自分で見つけ出し、それを自分なりの線でつないで、自分のものにしてもらいたいですね(横濱先生)」

 

「それ、面白いね!」は学びを進める魔法の言葉

先生方は生徒さんたちから出るアイディアに対して、まずは「それ、面白いね!」「良いね!」と返すようにされているそうです。「意見を出した時、教師に『それは違うな』とまず否定されると、『正解はなんですか』と自分で考えることを放棄して、教師に頼ってしまいます。一方『それ、面白いね!』と言われると、自分でもっと調べてみよう、と学びを進めることができます(品田先生)」。「それ、面白いね!」は、学習者が中心であり続けるための言葉でもあるのかもしれませんね。

 

「これからの教師は、自分が知らないことを恥ずかしいと思わず、生徒に『それ、面白いね!』『教えてくれてありがとう!』と言えるようになってほしいです。インターネットでなんでも調べることができるようになった今の時代、知識は必要な時に都度集めて表現の材料とするものです。教師も、知識を持っている人がえらいのではないというスタンスであるべきです(横濱先生)」

徳学園は、以前からとにかくやってみる、という姿勢に溢れた学校だそうです。修学旅行の企画やスケジュールの管理なども、長年生徒主体で進めてきたそうです。その雰囲気はもちろん先生方の中にもあります。先生方が新しいことにチャレンジし、その姿勢を生徒に見せる、ということも、生徒さん達によって良い学びの環境になるんだなと、お話を伺って感じました。

 

聖徳学園のSTEAM教育

STEAM教育とは、理系教育をベースとした教科横断、融合型の教育、STEM教育(ScienceTechnologyEngineeringMathematicの頭文字を取ったもの)をベースとし、そこにArt(創造性)を加えた、新しい学びのスタイルです。聖徳学園では、情報、ICT系の授業が教科の横断、融合の中心になっていることが、今回お話をうかがってよくわかりましたし、正解が存在せず、生徒さんが試行錯誤をしながら取り組む課題や、何かを1から作り上げたり、人に伝えるための表現力を身に着ける授業、そして、先生方の生徒さんたちの支援の仕方が、生徒さんたちの創造性を育くんでいることを感じました。このような聖徳学園のSTEAM教育が、今後どのように展開されていくのか、とても楽しみです。