東京都武蔵野市にある聖徳学園高等学校では、2024年に私学では初となる「データサイエンスコース」がスタートしました。データサイエンスコースのウェブサイトには「”教科の壁”を超えた複数科目における英語力強化により、ビッグデータを読み解ける力を養うと共に、豊富な知識に裏打ちされた創造的発想を可能とするリベラルアーツ教育により、文理融合型で幅広く学べるプログラムを提供」とあります。どんな授業が行われ、どんな生徒の育成を目指されているのか、伊藤正徳校長、データサイエンス部長のドゥラゴ英理花先生、広報部長の倉田豊子先生に、データサイエンスコースのカリキュラムと、現在の生徒さんたちの様子についてお話を伺いました。
‐私立高校でのデータサイエンスコースの設立は、貴校が初と聞きました。設立の経緯を教えていただけますか。
伊藤校長:私がデータサイエンスコースの設立を目指したのは、日本は世界と比較して、データを扱ったり、それを元に分析を行ったりする機会が極端に少ないと感じていたからです。スイスのビジネススクール、国際経営開発研究所(IMD)が毎年発表している世界競争力ランキングからもそれがうかがえます。ずっと首位だった日本はここ30年で順位が下がり、今年(2024年)はなんと38位。政府と知財とデジタルスキル、ビッグデータとデータ活用の評価が特に低く、それが日本の創造性を阻んているのではと感じてきました。
データサイエンスコースでは、様々なデータを客観的に分析し、それをもとに自ら課題を設定してアクションを起こし、新しい価値を創造できる人を育てることを目的に教育を行っていきます。
‐データサイエンスコースは将来、データサイエンティストになることを目指している生徒が多く在籍しているのですか?
ドゥラゴ先生:中にはデータサイエンティストを目指す生徒もいるのですが、そのためのコースではなく、これからの世の中を生きていくために必要な教養としてのデータサイエンス、つまり、データを読み解き、分析していく力を育てています。これからの時代、どんな分野に進んだとしてもデータサイエンスは基礎力として必要になってきます。統計学における解決手法であるPPDACサイクル(課題、計画、データ収集、分析、結論)を繰り返しながら学ぶことで、生徒たちはどんなシーンでも科学的根拠に基づく合理的な意思決定ができるようになります。
-特定の分野だけでなく、幅広い分野で創造性を発揮できる人を育てることを目的とされているのですね。どのようなカリキュラムなのでしょうか。
ドゥラゴ先生:3年間で、データサイエンスの知識、そしてそれらの知識を応用して新しい価値を生み出す力を身につけることを目指しています。データサイエンスを学ぶ際には、統計学や数学の基礎は必要なので、インプットの時間はもちろん設けていますが、1年生のスタートの段階からプロジェクトに取り組みながらその解決に必要な知識を身につけていく形で学習を進めていきます。2年生、3年生では自身のテーマを見つけてそれを深めていく、いわば大学での研究のような形になります。
-新入生のみなさんにとって「データサイエンス」という分野に触れるのは初めてだと思うのですが、授業は具体的にどのようなところからスタートするのですか
ドゥラゴ先生:高校1年での最初のデータサイエンス探究の授業は、「データサイエンスとは何か」を考えるところからスタートします。自己紹介や身近な話題からスタートし、データとは何か、データって本当に信頼できるのか等を自己紹介ワークや事例から学習します。データというと、数値をイメージされがちですが、実は文字や音声、画像、動画もデータです。このあたりについても最初の授業で触れます。その後は具体的なプロジェクトを通してデータのとり方や分析に必要な知識を数学、情報、統計学などの教科から学んでいきます。
すでに実施したプロジェクトに、震災に備えるプログラムを考えるというものがあります。学校のあたらしい避難訓練を企画した生徒たちは、日時が事前告知されている避難訓練は実施効果が薄いのではないかという点に着目し、予告なく行われる「ランダム避難訓練」を企画・実施しました。これまでに日本で起こった大震災の時刻を調査したところ、夕方に多く起こっていることが判明したため、訓練の時刻を午後に多く設定するように工夫をしました。
また別の生徒たちは、震災時に家族の安否を知る手段として、家族が非常持ち出し袋を所定の場所から取りだしたら、センサーがキャッチしてLINEに通知が来るシステムを考えました。非常持ち出し袋を取り出したということは、家から外に逃げ出せている、という仮定をして、そのデータをベースに組み立てたシステムです。
この仕組みは外部のコンテストに提出し、お陰様で全国大会2位という成果を出すことができました。
-お話をうかがっていて、データというのはとても身近にあって、それを活用することで様々な課題が解決できるようになることが分かりました。
ドゥラゴ先生:データサイエンスの知識は様々なところで活かせるので、自然と教科横断型の授業になっていきます。教育課程特例校(文部科学大臣の指定により、学習指導要領等教育課程の基準によらない特別の教育課程の編成・実施を行う学校)の認定を受け、データサイエンス探究、統計学など他校にない教科があるのでどうしてもそこが注目されがちですが、他の教科でもプロジェクト型でデータを扱う授業を多く実施しています。本コースが文理融合となっているのは、そういう理由です。
伊藤校長:たとえば国語の授業でもこのスタイルは可能です。他コースの国語の授業、芥川龍之介の「羅生門」を扱った授業を紹介させてください。文学を読み解く授業は、通常ですと文章の意味や作者の意図について先生が解説していく形になることが多いと思いますが、本校の授業では、まず生徒がそれぞれの課題を設定します。ある生徒は「なぜ物語が夕暮れから始まるのか」を課題として設定しました。夕暮れとはどんなものか、心情や人物の表現として、夕暮れがどのような役割を果たしているかという問いを立て、それについてデータを収集しながら考えを深め、論文にまとめていきます。先生から与えられた課題や資料(データ)を使うのではなく、自分で課題を設定してそれを解いていくための資料を自分で集め、分析して結論を導き出す。データというと数値と捉えられがちだと思うのですが、文系科目での言葉や資料もデータとして扱えます。例えばテキストマイニング機能を使うと、論文の中で頻出する言葉が視覚的にわかり、傾向を把握しやすくなります。
-文系科目でもデータサイエンスリテラシーは使えるのですね。取材前は「データサイエンス探究」などデータがつく授業や理系の授業のみがデータサイエンスの学習に該当すると思っていたのですが、その範囲は国語や社会科にも及ぶのですね。
伊藤校長:本校が文理融合と言っているのはまさにその点なんです。相手の心の中を推し測る必要がある問題を考えるためには、文系と理系を統合して考えていくことが必要です。データサイエンスコースのこのようなタイプの授業をいずれ他のコースにも広げていきたいと考えています。
-入学して半年、生徒さん達の様子はいかがですか?授業の多くが英語で行われるということもあり、かなりハイレベルな内容になっているのではと思いますが。
倉田先生:本コースの入学条件に英検準2級がありますので、生徒たちはイマージョンの授業に問題なくついてきていると感じています。他コースと比較すると課題が多いので大変かもしれませんが、入試説明会で受験生のみなさんに積極的に発信してくれたり、データサイエンスコースの良さを伝えたい、と言ってくれている様子を見ると、本コースでの学びを楽しんでいるのではないかと感じます。すでに自発的に色々なことに取り組める生徒たちですが、本校での3年間を通して、創造性をさらに高めて欲しいと考えています。
高校1年生のデータサイエンス探究の授業を見学させていただきました。
この日学んでいたのは金利について。銀行やその他機関での預金やローン等で発生する金利について学び、その後各時が何かを購入する時にローンを組むことを想定し、その時に発生する金利計算をすることが課題となっていました。実生活に近い課題に取り組みながら、生徒たちは数学の複利計算、等比数列について、理解を深めていきます。
<編集後記>
今回見学をさせていただく前は、聖徳学園のデータサイエンスコースとは、将来データサイエンティストを目指す生徒が学ぶコースだと思っていました。見学させていただき、それが全くの勘違いだということがわかりました。データは数字だけではなく、私たちの生活のあらゆるシーンに存在ること、データサイエンスの知識は、すべての分野で使えることが、お話を伺ってよくわかりました。
データサイエンスコースの授業は、国際バカロレアのカリキュラムを応用しながらも学校が目指す方向性に合わせてつくられた完全オリジナルの授業だということにも驚きましたし、その中で生き生きと活動されている生徒さんたちが、高2、高3とどのように成長していくのか、とても楽しみだと感じました。これから聖徳学園中学校を目指す生徒さんたちは、高校でデータサイエンスコースを選択できる可能性もあります。
また、中高を通して行われているSTEAM教育も大きな魅力です。5年前に取材させていただいたこちらの記事もぜひご覧ください。
自分で考え、表現する力を育てる、聖徳学園のSTEAM教育 - 私学妙案研究所News
中学受験をご検討のみなさまもぜひ一度説明会に足を運ばれることをおすすめします。
(清水)
聖徳学園中学・高等学校のウェブサイトはこちらです。
https://jsh.shotoku.ed.jp/