子宮頸がんについてもっと多くの人に知ってほしい。品川女子学院から始まった「子宮頸がんかるた」プロジェクト

みなさんは、HPVワクチンを知っていますか。HPVワクチンは、子宮頸がんの原因とされるヒトパピローマウイルス(16型や18型など)に持続感染等の予防効果をもつワクチンで、日本でも接種が可能ですが、いくつかの理由で接種は進んでおらず、世代によってはワクチンの認知度自体もとても低くなっています。

今回は、その状況を改善し、より多くの方に子宮頸がんについて、HPVワクチンについて、そして検診について知ってもらうための活動をしている、品川女子学院の生徒さんたちにインタビューをさせていただきました。

 

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取材させていただいたのは、高校3年生の4名の生徒さんたちです。高校2年生のCBLという授業での活動を通して、子宮頸がんやその予防方法について知り、自分たちと同世代の中高生にもっと知らせていきたいと強く感じ、保健体育の授業で使える「かるた」と授業キットを開発しました。開発までの経緯と、今後の活動についてうかがいました。

CBL(Challenge Based Learning)について:
5年生(高校2年生)の家庭科で行われる、課題解決型の授業。家庭科と総合の授業時間を使って行われ、数名のグループで活動する。内容は、身近な課題を見つけて調査をし、解決策を見つけて実行に移すというもの。4月から(2020年は5月から)テーマ決めをして活動を進める。「自分ごとであり、社会課題でもある」というテーマのもと、グループごとに自分たちで課題を設定する。グループに1名、メンターの先生がついて内容や進め方について相談できるようになっている。

 

―なぜ子宮頸がんをテーマとして選んだのでしょうか

遠藤さん:子宮頸がんは、自分ごと×社会課題の中で、グループ内でいくつかテーマ案を出した中の一つでした。メンバーの工藤が、母親からHPVワクチンのことを聞いて話題にしてくれたのがきっかけでした。

調べてみると、現在日本でのHPVワクチンの接種率はとても低く、ワクチンの存在自体を知らない若者もたくさんいる、ということがわかり、この状況を変えたいと思ったのがきっかけです。

 

―どのようにプロジェクトを進めましたか

遠藤さん:このプログラムは、夏休みまでは情報を集め、設定したテーマについて理解を深めます。その後解決策を考え、実行するという形で進めていきます。私たちが選んだテーマは医療系なので、間違った情報は絶対に伝えられないですし、自分たちがまず子宮頸がんやワクチンについて知らないと何も行動が起こせないので、まずはインターネット、新聞記事、書籍、論文からたくさんの情報を集めました。その上で子宮頸がんの予防について動いているNPO法人の方、医療従事者の方、助産師さん、患者の会などにお願いをし、合計6回、インタビューの機会をいただきました。

 

―インタビューをして、どう感じましたか

齊藤さん:最初は、自分自身も子宮頸がんのことをよく知らず、どちらかというと授業のためにプロジェクトを進めるという姿勢でしたが、実際に子宮がんをわずらった方にその経験をうかがい、心を動かされ、この問題への認識を新たにすることができました。

 

工藤さん:私はテーマを出した立場としてある程度この病気について問題意識はあったのですが、インタビューを通してより深く知ることができましたし、同時に問題の深刻さにも気が付くことができました。特にワクチンに関しては意見が大きく2つに分かれるのですが、そのどちらの立場も理解することができました。

 

森田さん:私も子宮頸がんについてよく知りませんでしたが現場の方の声を聞くことで、問題を認識することができましたし、接種率などのデータを見ていく中で、日本だけでなく、世界の状況にも意識を向けられるようになりました。これをきっかけに、新型コロナ肺炎など他の話題についても、情報の見方が変わりましたね。

 

遠藤さん:インタビューの前に校内アンケートを行ったところ、子宮頸がんについて、HPVワクチンについて、検診についてのどれに関しても「よく知っている」と答えた生徒が全体の5-6%でした。その結果を見た時も少ないと感じてはいたのですが、インタビューをしてみて、これらの情報について、大人から伝える活動は広がっているものの、私たち中高生にはその活動すら伝わっていないということ、中高生が主体となって行っている活動もほとんどないことに気が付きました。

また同時に、ワクチン接種のメリット、デメリットについてもより深く考えられるようになりました。それは数値的なものだけでなく、一人ひとりの立場で考えると、納得とか、不安とか、気持ちの問題にも気が付きます。だからこそ、個々人がしっかりと情報を得て、自分で決めることが大切だとあらためて感じました。

 

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校内アンケートの結果 (回答者母数は 子宮頸がん:117名、 ワクチン:129名 、検診:153名)

 

―インタビュー実施後、検討はどのように進みましたか

遠藤さん:インタビュー、アンケート、それまでの調査を踏まえ、

1.HPVワクチンのメリットとデメリットを中高生にしっかりと伝える
2.子宮頸がんの定期健診を勧める(20歳以降)
3.私たち高校生が中高生に伝えるために、学校という場を使って伝える

という方針を決め、具体的に検討を開始しました。

1と2については、子宮頸がんについてまずは知ってもらい、次にHPVワクチンの情報を伝え、定期健診を勧める、という形にしました。

中高生に伝える場としては、マスコミと学校教育現場のどちらかにするか迷ったのですが、学校の授業を通してであれば、このテーマに興味を持っていない生徒にも情報が伝わると考えました。そして、ただ話を聞くだけではない情報の伝え方としてかるたを選びました。



―かるたはどのように作ったのですか

遠藤さん:かるたの絵札は、表面がひらがな1文字と挿絵、裏面が解説文となっています。セットの読み札は、5・7・5形式の文章にしています。
まず、子宮頸がん、HPVワクチン、子宮頸がん検診の3つのテーマで、メンバーそれぞれが伝えるべきテーマを挙げていき、合計25枚の札をつくることになりました。かるたの制作工程としては、まず絵札裏面の解説文を書きました。それから絵札と読み札を同時進行で分担して作っていきました。読み札は解説文の要約になるため、できあがってみると絵札と合わないこともあり、調整をしながら進めました。また、ひらがなの50音表をチェックしながら、それぞれの札の頭文字がかぶらないようにしました。絵札に使う絵は、フリー素材を組み合わせてつくりました。とるのに躊躇してしまうような表現は避け、できるだけかわいいものにしました。扱っているのは難しいテーマだからこそ、まずはしたしみやすい雰囲気をつくって、多くの人に伝えたかったからです。メンバーで作業の分担をし、約2週間で仕上げました。

 

◇かるたの一例 左から、絵札、絵札の裏面、読み札

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―2週間とはとても早いですね。かるたは、実際に授業で使っているのですか

遠藤さん:CBL担当の丸山先生に相談したところ、まずは本校の保健の先生に交渉してみたらと提案していただいたので、保健の先生に相談してみたところ、高校2年生の保健の授業を1時間、かるたに使ってくれることになりました。その際、授業として実施する際に必要なもの、例えば授業のねらい、ガイドラインなどが必要だと教えていただき、かるたを授業で実施するための資料やスライドをつけた授業キットを作りました。授業での、かるたの進め方も考えました。最初は全部絵札をとってから、解説を聞く形を考えたのですが、それだと生徒が眠くなってしまうと思い(笑)、読み札の順番を決めて、1枚とるごとに解説をすることにしました。読み札の順番は、子宮頸がん、ワクチン、検診の順番にしました。授業はうまくいったと思います。保健の先生もとても良いと言ってくれて、今年度も担当の学年でやってくれるみたいです(最初の授業実施は昨年度)。

◇授業で使用する手引きの抜粋。授業の進め方や、より詳しいかるたの解説が掲載されている。

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―次の展開についても考えていますか

遠藤さん:授業は昨年度で終わり、今年は高校3年生ということで、メンバーは活動を休止していますが、私は活動を続けています。かるたについてはまず絵札をオリジナルのイラストに変更し、その次に無料配布をしてみようと思っています。外部のコンテストに応募する機会や、お話させていただく機会は積極的に使い、大人の方にも子宮頸がん、ワクチン、検診のことを知っていただけたらという思いからです。HPVワクチンは、大人になってから受けることもできますし、一定の効果があるため、大人の方も関心を持つきっかけになったらと思っています。また、ビジネスコンテストなどをきっかけに、商品化の相談をさせていただいたりもしています。教育現場に解決策を置いたときに、私立は学校単位で動きやすいけれども、公立に導入するとなると、自治体として、国としての組織を変えないと動けないため、まだまだ越えなくてはいけない壁はありますが、活動を続けていきたいです。

 

―この取り組みで成長したと感じることはありますか

齊藤さん:私はそれまでプロジェクトでリーダーをつとめる経験がなかったのですが、このプロジェクトでは色々な役割を経験することができました。特にインタビューの進行をつとめたことはとても良い経験になっています。また、外部のコンテストでは大人の方に話を聞いていただいたり、今まで知らなかった世界を知ることができたので、とてもよかったと思っています。

工藤さん:私はこれまでリーダーを経験することが多かったのですが、今回初めて、リーダーに距離が近いがまとめ役ではない、というポジションについて、そういう立場の人間としてどうふるまうべきか、ものすごく勉強になりました。これまでの経験も生かして活動できたと思います。子宮頸がんについてはプロジェクトを通して知識が深まり、自分ごとにもなりました。

森田さん:プロジェクトでインタビューなどをしていく中で、子宮頸がんを色々な面から捉えたり、考えることができるようになりました。プレゼンテーションでは人前で話すことが得意ではないので、原稿や資料づくりを担当したのですが、その表現にはこだわることができました。

遠藤さん:私はもともとリーダーをやることが多かったのですが、その経験にてらしても、このメンバー3人は本当に任せられる3人で、アイディアを形にしたり、文章化したりと、それぞれの力を発揮してくれました。リーダーとしても、リーダーがすべてをやるのではなく、他の人を成長させるのもリーダーの役目なのかなとあらためて感じました。他の人を育てて安心してみんなにお願いする環境づくりはとても勉強になり、自分も成長したと感じました。

 

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子宮頸がんとその予防という難しいテーマを、自分たちの問題としてまっすぐにとらえ、賛成でも反対でもないフラットな立場で多くの人に伝えていく活動をスタートされたみなさん。この活動がどんな風に広がっていくのか、とても楽しみです。また、このインタビューをお読みいただいたみなさまも、ぜひ、自分ごととして、子宮頸がんのこと、考えてみてください。

 

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CBLの授業を担当されている丸山先生と、「子宮頸がんかるた」プロジェクトのみなさん外部のコンテストの全国大会出場を記念した盾とともに