東京女学館 館長・理事長 福原孝明先生 インタビュー(オルセースクールミュージアム開催に向けて)

2019年3月、東京女学館中学校・高等学校で、オルセースクールミュージアムが行われます。東京女学館・館長・理事長、中学校・高等学校 校長の福原 孝明先生に、開催の目的、展示の見どころについて、お話を伺いました。

f:id:s-goodidea:20181031182851j:plain

 

■開設130年の周年事業としてオルセースクールミュージアム開催を決められた経緯、きっかけについて教えてください

開催を決めた一番の理由は、東京女学館の創立の時期と、展示する作品が描かれた時期が重なることです。19世紀後半は、フランスでは産業革命という時代が大きく変わった時期にあたり、同時に近代絵画の幕開けが、印象派によってもたらされた時代でした。また、日本ではその頃、近代の女子教育の幕開けが、女子校の設立という形でもたらされていました。毎年11月に行っている創立記念式典や、入学当初に私が担当するスクールアイデンティティの授業でも、開校当初のことは伝えていますが、本展示を通して、あらためてその時代について、本校の生徒たちに想起してもらいたいと思っています。

 

またその時代、印象派の画家たちは日本の文化に憧れ、描き方に取り入れていましたし、日本には西洋の文化や生活様式が入ってきて、急激に変化をしていきました。生徒たちはもちろん、卒業生のみなさまや地域の方、来場される方みなさまに、本校の歴史を通して、その変化を両面から見て楽しんでいただければと思います。

 

■本展覧会は2部制となっていて、第1部が「『ローヌ川の星降る夜』が生まれた時代」、第2部が「19世紀と女性たち」となっていますね。第1部のテーマとしてフィンセント・ファン・ゴッホの「ローヌ川の星降る夜」を選ばれたのはなぜですか。

ローヌ川の星降る夜」が描かれた1888年は、東京女学館が設立された年だからです。

本校の設立の背景には、不平等条約を改正し、欧米諸国と対等な関係を築きたいという願いがありました。これは政府だけでなく経済界はもちろんのこと日本国全体の課題となっていて、そのためには男性だけでなく女性の育成も欠かせないと、多くの人が感じていました。欧米婦人と対等に交際できる日本婦人を育成するために、国際基準の女子教育を受けさせたい。これが、東京女学館の設立に関わった人々の想いだったのです。東京女学館は、そのような想いを持つ日本のトップランナーたちの集まり、女子教育奨励会によって、女性の高等教育を実現するために1888年9月11日に設立されたのです。

 

それが、ゴッホの「ローヌ川の星降る夜」が描かれた1888年9月です。女学館は、この年7人のイギリス人教師を迎えて開校しました。彼女らは、1888年1月26日にイギリスを発ち、3月22日に日本に到着し、9月の女学館の開校に備えました。おそらくゴッホが「ローヌ川の星降る夜」を制作していたときと重なり、不思議な縁を感じます。そして、女学館が開校した頃の星空を「ローヌ川の星降る夜」を通して見ることができることも楽しみです。

 

第1部の会場には、本校の開校当初の時代がわかるパネル展示を行います。生徒によるパネルの企画もしておりますので、是非ご覧ください。

それから、現在展示の準備を進めているのが、本校に約45年間在職して英語を教えた英国人教師、ドロセア・E・トロット先生の展示コーナーです。トロット先生は、本校の制服、女学館文字と呼ばれるブロック体制定にも関わられています。英語の指導は厳しかったそうですが、生徒達にはとても慕われていて、帰国の際には多くの生徒が空港に見送りに行きました。本校の歴史について、この展示からも見ていただけると思います。

 

f:id:s-goodidea:20181031183244j:plain

ドロセア・E・トロット先生



 

 

f:id:s-goodidea:20181031183335j:plain

制服が忠実に再現されたリカちゃん人形



 

■第2部は「19世紀と女性たち」がテーマとなっています。この展示を通して、来場者および生徒さん達に伝えられたいのはどのようなことですか。

f:id:s-goodidea:20181031182755j:plain

第2部では、19世紀後半の女性の生き方を感じてもらえるような絵や、女性画家によって描かれた作品の展示をいたします。19世紀後半は、現代と比べると、女性が男性と同じ職業を選択したり、活躍をするのは難しい時代でした。こちらの鑑賞を通して、この時代の女性の生き方を感じ、女性の自立について考えてもらえれば、と思います。

 

東京女学館も女子教育とはいいながらも、開校当初は良妻賢母のための教育でした。様々な分野で活躍する夫をいかに支え、家庭を盛り立てていくかが自分の役割だと認識していた生徒が大半でした。しかし、1980年代には生徒の意識はすっかり変わっていました。それまでは本校併設の短期大学に多く進学していましたが、次第に目指したい学部が法学部、経済学部、医学部、薬学部、理学部などに変化していき、1980年代には、大半がそのような進路選択になっていました。その流れを受けて、創立110年に教育目標に「人と社会に貢献する」という言葉をいれ、「高い品性を備え、人と社会に貢献する女性の育成」としました。高い品性と人間性を備え、さらに男性とともに社会に貢献する人に育ってほしいという願いを込めました。また、本校では20年前から「インクルーシブ リーダーシップ」を育てる教育を行っています。中高6年間の様々な体験を通して、自分たちが力を合わせて、実現していくことを大切にしています。

 

そのような生徒達が、展示を見て、どのように感じるかも楽しみですし、ご来場のみなさまにも、時代の転換期と言われる今だからこそ、あらためて女性の生き方について考えていただければと思います。

 

■生徒さんたちによる企画展示もありますね。

 非常にうれしかったのは、美術選択の生徒たちが、実行委員長、副委員長をやりたいと手を挙げてくれたことです。我々が目指す教育について、生徒が理解して、自ら動いてくれるのは、本当にうれしいことです。展示やイベントなど、たくさんの企画アイディアが出てきています。その企画が成功することを期待するとともに楽しみにしています。

 

■今回の企画をきっかけに、貴校をはじめて訪れる方もいらっしゃると思います。企画の内容はもちろん、貴校について知ってもらいたいこと、伝えたいことはありますか。

ミロや、マチス等のリトグラフが常設されているとともに、美術の授業で描いた生徒の作品が館内のいたるところに飾ってあり、生徒の感性や情操を豊かに育んでいます。そのような環境を知っていただくと共に、この公開を機に近隣にお住まいのみなさまにも多数ご来場いただき、女学館の生徒達や学校についてより深くご理解いただくことで、今後はいっそう深く地域のために関わっていく、はじめの一歩としたいと思います。

 

また、生徒の自主企画に加え、生徒たちがアートコンシェルジュとして、みなさまに絵画について説明をすることになっています。学校説明会や文化祭とは少し違う普段の雰囲気を、生徒の様子を通じて感じていただければと思います。お子様たちも楽しめる企画もたくさん準備をしていますし、美術館よりはゆったりと見ていただけると思いますので、ぜひ、お子様と一緒にご来校ください。

 

 東京女学館には他にも見どころがたくさんあります。ぜひ実際にお越しになって、ご自身の目でたくさんの発見をしてください。

f:id:s-goodidea:20181031184155j:plain

アンネのバラ委員会と理事長先生により育てられているアンネのバラ