あらためまして、私学妙案研究所です

こんにちは。私学妙案研究所です。色々な新しい出来事が重なり、情報発信がおろそかになってしまっていましたが、これから定期的に情報を発信してまいります。

 

私学妙案研究所は、私学の魅力をよりの方に知っていただきたいという思いで日々活動しています。また、教育全般においても、できるだけわかりやすく情報をお伝えしてまいります。

 

今こんなことをしています。

・「教育とお金」の発行、配布

 

・「自由研究フェスタ」の開催、運営

  https://jiyukenkyu-online.s-goodidea.jp/

・お弁当レシピサイト「N’s KITCHEN」の運営

  https://nskitchen.jp/

・「Meetup! Teachers」の運営

  https://teacher.s-goodidea.jp/

・「オルセースクールミュージアム」の運営

 

これらに関する情報と、教育に関わる情報を発信してまいります。どうぞご覧ください。

子宮頸がんについてもっと多くの人に知ってほしい。品川女子学院から始まった「子宮頸がんかるた」プロジェクト

みなさんは、HPVワクチンを知っていますか。HPVワクチンは、子宮頸がんの原因とされるヒトパピローマウイルス(16型や18型など)に持続感染等の予防効果をもつワクチンで、日本でも接種が可能ですが、いくつかの理由で接種は進んでおらず、世代によってはワクチンの認知度自体もとても低くなっています。

今回は、その状況を改善し、より多くの方に子宮頸がんについて、HPVワクチンについて、そして検診について知ってもらうための活動をしている、品川女子学院の生徒さんたちにインタビューをさせていただきました。

 

***

取材させていただいたのは、高校3年生の4名の生徒さんたちです。高校2年生のCBLという授業での活動を通して、子宮頸がんやその予防方法について知り、自分たちと同世代の中高生にもっと知らせていきたいと強く感じ、保健体育の授業で使える「かるた」と授業キットを開発しました。開発までの経緯と、今後の活動についてうかがいました。

CBL(Challenge Based Learning)について:
5年生(高校2年生)の家庭科で行われる、課題解決型の授業。家庭科と総合の授業時間を使って行われ、数名のグループで活動する。内容は、身近な課題を見つけて調査をし、解決策を見つけて実行に移すというもの。4月から(2020年は5月から)テーマ決めをして活動を進める。「自分ごとであり、社会課題でもある」というテーマのもと、グループごとに自分たちで課題を設定する。グループに1名、メンターの先生がついて内容や進め方について相談できるようになっている。

 

―なぜ子宮頸がんをテーマとして選んだのでしょうか

遠藤さん:子宮頸がんは、自分ごと×社会課題の中で、グループ内でいくつかテーマ案を出した中の一つでした。メンバーの工藤が、母親からHPVワクチンのことを聞いて話題にしてくれたのがきっかけでした。

調べてみると、現在日本でのHPVワクチンの接種率はとても低く、ワクチンの存在自体を知らない若者もたくさんいる、ということがわかり、この状況を変えたいと思ったのがきっかけです。

 

―どのようにプロジェクトを進めましたか

遠藤さん:このプログラムは、夏休みまでは情報を集め、設定したテーマについて理解を深めます。その後解決策を考え、実行するという形で進めていきます。私たちが選んだテーマは医療系なので、間違った情報は絶対に伝えられないですし、自分たちがまず子宮頸がんやワクチンについて知らないと何も行動が起こせないので、まずはインターネット、新聞記事、書籍、論文からたくさんの情報を集めました。その上で子宮頸がんの予防について動いているNPO法人の方、医療従事者の方、助産師さん、患者の会などにお願いをし、合計6回、インタビューの機会をいただきました。

 

―インタビューをして、どう感じましたか

齊藤さん:最初は、自分自身も子宮頸がんのことをよく知らず、どちらかというと授業のためにプロジェクトを進めるという姿勢でしたが、実際に子宮がんをわずらった方にその経験をうかがい、心を動かされ、この問題への認識を新たにすることができました。

 

工藤さん:私はテーマを出した立場としてある程度この病気について問題意識はあったのですが、インタビューを通してより深く知ることができましたし、同時に問題の深刻さにも気が付くことができました。特にワクチンに関しては意見が大きく2つに分かれるのですが、そのどちらの立場も理解することができました。

 

森田さん:私も子宮頸がんについてよく知りませんでしたが現場の方の声を聞くことで、問題を認識することができましたし、接種率などのデータを見ていく中で、日本だけでなく、世界の状況にも意識を向けられるようになりました。これをきっかけに、新型コロナ肺炎など他の話題についても、情報の見方が変わりましたね。

 

遠藤さん:インタビューの前に校内アンケートを行ったところ、子宮頸がんについて、HPVワクチンについて、検診についてのどれに関しても「よく知っている」と答えた生徒が全体の5-6%でした。その結果を見た時も少ないと感じてはいたのですが、インタビューをしてみて、これらの情報について、大人から伝える活動は広がっているものの、私たち中高生にはその活動すら伝わっていないということ、中高生が主体となって行っている活動もほとんどないことに気が付きました。

また同時に、ワクチン接種のメリット、デメリットについてもより深く考えられるようになりました。それは数値的なものだけでなく、一人ひとりの立場で考えると、納得とか、不安とか、気持ちの問題にも気が付きます。だからこそ、個々人がしっかりと情報を得て、自分で決めることが大切だとあらためて感じました。

 

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校内アンケートの結果 (回答者母数は 子宮頸がん:117名、 ワクチン:129名 、検診:153名)

 

―インタビュー実施後、検討はどのように進みましたか

遠藤さん:インタビュー、アンケート、それまでの調査を踏まえ、

1.HPVワクチンのメリットとデメリットを中高生にしっかりと伝える
2.子宮頸がんの定期健診を勧める(20歳以降)
3.私たち高校生が中高生に伝えるために、学校という場を使って伝える

という方針を決め、具体的に検討を開始しました。

1と2については、子宮頸がんについてまずは知ってもらい、次にHPVワクチンの情報を伝え、定期健診を勧める、という形にしました。

中高生に伝える場としては、マスコミと学校教育現場のどちらかにするか迷ったのですが、学校の授業を通してであれば、このテーマに興味を持っていない生徒にも情報が伝わると考えました。そして、ただ話を聞くだけではない情報の伝え方としてかるたを選びました。



―かるたはどのように作ったのですか

遠藤さん:かるたの絵札は、表面がひらがな1文字と挿絵、裏面が解説文となっています。セットの読み札は、5・7・5形式の文章にしています。
まず、子宮頸がん、HPVワクチン、子宮頸がん検診の3つのテーマで、メンバーそれぞれが伝えるべきテーマを挙げていき、合計25枚の札をつくることになりました。かるたの制作工程としては、まず絵札裏面の解説文を書きました。それから絵札と読み札を同時進行で分担して作っていきました。読み札は解説文の要約になるため、できあがってみると絵札と合わないこともあり、調整をしながら進めました。また、ひらがなの50音表をチェックしながら、それぞれの札の頭文字がかぶらないようにしました。絵札に使う絵は、フリー素材を組み合わせてつくりました。とるのに躊躇してしまうような表現は避け、できるだけかわいいものにしました。扱っているのは難しいテーマだからこそ、まずはしたしみやすい雰囲気をつくって、多くの人に伝えたかったからです。メンバーで作業の分担をし、約2週間で仕上げました。

 

◇かるたの一例 左から、絵札、絵札の裏面、読み札

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―2週間とはとても早いですね。かるたは、実際に授業で使っているのですか

遠藤さん:CBL担当の丸山先生に相談したところ、まずは本校の保健の先生に交渉してみたらと提案していただいたので、保健の先生に相談してみたところ、高校2年生の保健の授業を1時間、かるたに使ってくれることになりました。その際、授業として実施する際に必要なもの、例えば授業のねらい、ガイドラインなどが必要だと教えていただき、かるたを授業で実施するための資料やスライドをつけた授業キットを作りました。授業での、かるたの進め方も考えました。最初は全部絵札をとってから、解説を聞く形を考えたのですが、それだと生徒が眠くなってしまうと思い(笑)、読み札の順番を決めて、1枚とるごとに解説をすることにしました。読み札の順番は、子宮頸がん、ワクチン、検診の順番にしました。授業はうまくいったと思います。保健の先生もとても良いと言ってくれて、今年度も担当の学年でやってくれるみたいです(最初の授業実施は昨年度)。

◇授業で使用する手引きの抜粋。授業の進め方や、より詳しいかるたの解説が掲載されている。

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―次の展開についても考えていますか

遠藤さん:授業は昨年度で終わり、今年は高校3年生ということで、メンバーは活動を休止していますが、私は活動を続けています。かるたについてはまず絵札をオリジナルのイラストに変更し、その次に無料配布をしてみようと思っています。外部のコンテストに応募する機会や、お話させていただく機会は積極的に使い、大人の方にも子宮頸がん、ワクチン、検診のことを知っていただけたらという思いからです。HPVワクチンは、大人になってから受けることもできますし、一定の効果があるため、大人の方も関心を持つきっかけになったらと思っています。また、ビジネスコンテストなどをきっかけに、商品化の相談をさせていただいたりもしています。教育現場に解決策を置いたときに、私立は学校単位で動きやすいけれども、公立に導入するとなると、自治体として、国としての組織を変えないと動けないため、まだまだ越えなくてはいけない壁はありますが、活動を続けていきたいです。

 

―この取り組みで成長したと感じることはありますか

齊藤さん:私はそれまでプロジェクトでリーダーをつとめる経験がなかったのですが、このプロジェクトでは色々な役割を経験することができました。特にインタビューの進行をつとめたことはとても良い経験になっています。また、外部のコンテストでは大人の方に話を聞いていただいたり、今まで知らなかった世界を知ることができたので、とてもよかったと思っています。

工藤さん:私はこれまでリーダーを経験することが多かったのですが、今回初めて、リーダーに距離が近いがまとめ役ではない、というポジションについて、そういう立場の人間としてどうふるまうべきか、ものすごく勉強になりました。これまでの経験も生かして活動できたと思います。子宮頸がんについてはプロジェクトを通して知識が深まり、自分ごとにもなりました。

森田さん:プロジェクトでインタビューなどをしていく中で、子宮頸がんを色々な面から捉えたり、考えることができるようになりました。プレゼンテーションでは人前で話すことが得意ではないので、原稿や資料づくりを担当したのですが、その表現にはこだわることができました。

遠藤さん:私はもともとリーダーをやることが多かったのですが、その経験にてらしても、このメンバー3人は本当に任せられる3人で、アイディアを形にしたり、文章化したりと、それぞれの力を発揮してくれました。リーダーとしても、リーダーがすべてをやるのではなく、他の人を成長させるのもリーダーの役目なのかなとあらためて感じました。他の人を育てて安心してみんなにお願いする環境づくりはとても勉強になり、自分も成長したと感じました。

 

 ***

子宮頸がんとその予防という難しいテーマを、自分たちの問題としてまっすぐにとらえ、賛成でも反対でもないフラットな立場で多くの人に伝えていく活動をスタートされたみなさん。この活動がどんな風に広がっていくのか、とても楽しみです。また、このインタビューをお読みいただいたみなさまも、ぜひ、自分ごととして、子宮頸がんのこと、考えてみてください。

 

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CBLの授業を担当されている丸山先生と、「子宮頸がんかるた」プロジェクトのみなさん外部のコンテストの全国大会出場を記念した盾とともに

 

 

オルセースクールミュージアム in 東京女学館 開催中です!

みなさまこんにちは。私学妙案研究所の清水です。2019年3月24日(日)~31日(日)の8日間、東京女学館中学校・高等学校(東京都渋谷区広尾)にて、「オルセースクールミュージアム in 東京女学館」を開催中です。今日でちょうど前半が終了したところです。来場された方から質問を受けたり、運営に関わっていて私も気が付いた事がありますので、あらためてご紹介記事を書きたいと思います。

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オルセースクールミュージアムとは、学校を一定期間ミュージアムに変身させるプロジェクトです。校内に作品を展示し、先生や生徒、保護者、卒業生に鑑賞してもらうとともに、この期間だけは広く一般のかたにも開放し、楽しんでいただきます。これまでも関東、関西で合計8校で開催してまいりました。

 

スクールミュージアムの展示の中心となりますのは、パリにあるオルセー美術館所蔵の印象派を中心とした絵画の「リマスターアート」です。

 

リマスターアートとは、言葉通りRe-Master(原作を再現する)という意味で、入力から出力までを統括するコンピュータ画像運用技術です。この技術は、スクールミュージアムの展示にご協力をいただいているアルステクネ社、久保田光巌氏の20年間の試行錯誤によって生まれました。独自の技術で絵画を様々な角度から撮影、外線やX線も使い、何重にも塗り重ねられた絵の具の奥も分析。その後細かい修正作業で、凹凸を再現し、学術的な検証も交え作家が意図したであろう環境光を再現し、原画と比較しながら、何度も色校正を行います。そういったプロセスを経て、原画を見ているようなクオリティの復原画が出来上がります。

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オルセー美術館での撮影風景

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リマスターアートのクオリティについては、ぜひ会場でご覧いただきたいのですが、上の写真のように、ルーペやペンライトを使っても、わからないくらいです!そして、これがもうひとつのリマスターアートの楽しみ方なのですが、原画と違い光に強いため、ライトをあててしっかり見ることができます。ペンライトもルーペも会場で貸し出していますので、ぜひお使いください。

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そして、さきほどのオルセーミュージアムでの撮影シーンと見比べていただきたいのですが、スクールミュージアムでは、壁面も、再現しています。絵を飾るための壁を立てているのです。今回の開催でも「オルセーに行ったことがあるけどここでまた楽しめてよかった」と言って下さる方も何名かいらっしゃいました。

 

そして今回東京女学館で開催となった経緯については、以前こちらのブログでも館長福原先生のインタビューを紹介させていただいたのですが、

https://s-goodidea.hatenablog.com/?page=1541478608

今年度が東京女学館創立の130周年にあたり、その時代が印象派の絵画が描かれた時代に重なるからです。特に第一会場にあるゴッホの「ローヌ川の星降る夜」は、創立年と同じ1888年に描かれたといわれています。

第一会場は、印象派の少し前の時代から、印象派印象派後期まで、その時代の作品が並んでいます。そして、第二会場は、その時代の女性をテーマとした展示となっています。東京女学館でも今のセーラー服ではなく、袴姿で登校をしていた時代、西洋では、女性はどのような服装や生き方をしていたのか、見ることができます。そして、この会場には2人の女性の画家が登場しますので、そちらも併せてご覧ください。そして、それに関連する絵が実は第一会場にもありますので、気になった方はもう一度第一会場へ。何度でも、好きな順番でゆっくりとご覧くださいね。

 

それから、東京女学館の所蔵作品が見られるギャラリーを通って、第三会場へ。ここには、ゴッホの自画像、そして、生徒さんたちの作品が多く展示されてますので、お見逃しなく!ゴッホの言葉を読んで、もう一度ゴッホの絵を見たくなったら、また第一会場にお戻りくださいね(笑)。

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第三会場に行く前に、今回のために草月流を学んでいる生徒さんが4時間かけて活けてくださった作品がありますので、こちらもぜひご覧ください。

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それから、第一会場、第二会場では、生徒有志のアートコンシェルジュによる解説が行われています。会期中毎日11:00-12:00と14:00-15:00ですが、それ以外の時間も生徒さんがいれば声をかけてみてください。事前に4回、アートコンシェルジュ講習が行われているのですが、生徒さん達は、そこで学んだことだけでなく、自分で調べたこと、感じたことを解説してくれています。お互いに学び合うこともあるそうです。

 

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模写の道具も貸し出していますので、ぜひ。模写をすることで、絵の理解が深まる効果もあるそうです。

 

そして、会期中は毎日、コンサートや発表などが行われています。

ダンス、ピアノ、独唱、ギター部など、これまでの発表もとても素敵でした。

東京女学館の生徒さん達にとって、音楽やダンスも含めた表現活動は、とても身近なものだということを、今回関わらせていただき、感じています。やってみたいことにまっすぐ取り組む生徒さんたちの姿勢と、その表現を、素晴らしいと認められる先生方がいらっしゃる環境、本当に素晴らしいと感じています。

 

全てについては書ききれませんでしたので、ぜひ、会期中に会場にお越しください。

プログラムの詳細は、Facebookページよりご覧いただけます。

https://www.facebook.com/OrsaySchoolMuseum/

 

東京女学館 #オルセー #リマスターアート

 

自分で考え、表現する力を育てる、聖徳学園のSTEAM教育

みなさまこんにちは。清水葉子です。

先日、東京都武蔵野市にある聖徳学園中学、高等学校の情報の授業を見学させていただくとともに、学校改革本部長の品田健先生、CISO(最高情報セキュリティ責任者)の横濱友一先生にお話をうかがいました。

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お話をうかがった品田先生(左)、横濱先生(右)

今回見学させていただいたのは、高校2年生、3学期最初の情報の授業です。3学期は、総合の授業で取り組んでいる途上国支援について各自でポスターにまとめていきます。

授業の冒頭、品田先生より、動画の紹介がありました。隣接しているのにほとんど交流がなく、お互いをあまりよく思っていないインドとパキスタンの人たちの心の距離を、ある「しかけ」を使って近くする、というものでした。

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続いて、個人でポスター制作を進めていきます。使っているのはPagesという、文字や写真をレイアウトできるアプリケーションです。今回はA1サイズのポスターを制作するということで、品田先生より用紙サイズ設定の説明がありましたが、生徒さんたちはPagesは使い慣れているということで、それ以外の部分では質問も少なく、それぞれに作業を進めていきます。

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 情報の授業が行われているのは、STEAM棟1階のLearning Commons。
学校内はもちろん、学校の外からも見通しの良い、オープンな場となっています。

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この空間はグループワークにも適していますが、今回の授業のような個人ワークでも、1人で集中したい生徒と2-3名で相談しながら作業を進めたい生徒が少しずつ椅子を動かしてそれぞれに快適なスペースをつくっているのが、興味深かったです。

 

正解のない学びに取り組み、枠組みを壊す力をつける

横濱先生によると、高校の情報の授業のほとんどは、英語や総合学習など、別の授業で学んだ内容を、情報の授業で様々なツールを使って表現するという形で進められるそうです。
「情報の教科書にも資料が掲載されていて、それを使った分析や、グラフ化はできるのですが、生徒が掲載されている資料に興味を持てないことが多く、また、同じ資料を使うと同じ結果=正解を求める形になってしまいますので、それならば別の資料を使って授業を進めようと、現在のような形にしています(横濱先生)」

物理の授業で学んだ内容をもとに、テスト問題を自分たちでつくってみる、世界各国のあいさつ動画を自分たちでつくってみるなどの課題があるそうですが、成果としてはそれぞれのものができあがるため、生徒さんたちの工夫や表現のしがいがある、ということですね。

課題に個人で取り組むか、グループで取り組むかは、都度、課題に応じて変わるそうです。中学では、人の話の聞き方、話し合いの仕方などについての基本を学び、グループワークを通して、自分の行動が相手に影響を与えることを学んでいくそうです。例えば、相手の話に相槌を打ったり、自分の意見をはっきりと伝えることで、お互いを認め合う雰囲気をつくることも、表現教育において大切なことだそうです。また中学のICT系の授業では、美術の授業とのコラボレーションで映像をつくるといったこともされているそうです。

「中学のICT系の授業では、小学生時代に知らずしらずのうちに身についてしまったかもしれない『正解を探す学び方』から脱却し、正解のない学びに取り組み、色々な枠組みを壊すような力をつけてほしいと思っています。本校内にはそれほどルールはないのに、生徒が勝手にルールを意識してしまうこともあるんです。例えば、Learning Commonsは飲食禁止ではないのに、生徒のほうから『ここは飲食禁止ですよね』と言ってきたりします。そうではなく『先生、ここでお弁当食べてもいいですか?』と聞けるようになってもらいたいんですよね(横濱先生)」

生徒さんが学びの姿勢を変えるには、先生の関わり方も重要になってくるのではないでしょうか。「我々教師は、教えすぎないことを頑張っています。教師側からの説明の量が多いと、どうしても教師は授業をやった感を持ってしまうのですが、生徒が学べたと感じる授業は、教師からの説明は最小限で、生徒が自分で考え、学び進められた授業なんです。この経験を繰り返すことで、教師も教えすぎないほうが良いということを感覚的につかみ、しだいにスタンスを変えられるのではないかと思います(品田先生)」

 

自分の発想を実現するのにプログラミングが役立つかもしれない

授業の中でプログラミング教育は行われているのでしょうか。

「中学と高校、それぞれに学習の機会があります。まず中学では、スフィロという球形のロボットを使った授業があります。ここではビジュアルコーディングではなく、生徒に自分でコードを書いてもらいます。そのほうが英語の勉強にもなりますし、生徒達も心が動くようです。来年度は授業全体も英語で進めようと準備中です(横濱先生)」

「高校では、1年生の3学期に、Swiftという言語を学びます。Swiftを段階的に学べるアプリがあるので、授業の5時間を使い、それぞれが自分の進度で、アダプティブラーニング形式で学び進めます(品田先生)」

聖徳学園でのプログラミング教育の目的は「自分の発想を実現するのにプログラミングが役立つかもしれない」と生徒たちが考えられるようになることだそうです。生徒たちがこれからの人生でやってみたいことが出てきた時、「やりたいけど無理」ではなく「どうしたらやれるだろうか」と考えてほしい。そのために情報の授業では、新しいアイディアで社会に貢献する人や、お互いに技術やアイディアを持ち寄って何かを成し遂げた方たちの紹介をしたり、今回の授業の冒頭のように動画を見る時間をつくったりされています。

「プログラミング学習やプレゼン資料づくりなどの作業を進めていると、つい、技術の習得に集中して視野が狭くなってしまうので、そもそも何のために学んでいるのか、これを学ぶ目的は何かについて思いをはせられるよう、情報提供をし、それについて考える時間を授業内につくっています(品田先生)」

 

生徒の心が動いたり、新しい表現方法を身につける機会が、聖徳学園の6年間の情報、ICT系の授業の中には色々なスタイルで数多く設けられています。「その中で何を面白いと思うかは生徒によって違うので、自分で見つけ出し、それを自分なりの線でつないで、自分のものにしてもらいたいですね(横濱先生)」

 

「それ、面白いね!」は学びを進める魔法の言葉

先生方は生徒さんたちから出るアイディアに対して、まずは「それ、面白いね!」「良いね!」と返すようにされているそうです。「意見を出した時、教師に『それは違うな』とまず否定されると、『正解はなんですか』と自分で考えることを放棄して、教師に頼ってしまいます。一方『それ、面白いね!』と言われると、自分でもっと調べてみよう、と学びを進めることができます(品田先生)」。「それ、面白いね!」は、学習者が中心であり続けるための言葉でもあるのかもしれませんね。

 

「これからの教師は、自分が知らないことを恥ずかしいと思わず、生徒に『それ、面白いね!』『教えてくれてありがとう!』と言えるようになってほしいです。インターネットでなんでも調べることができるようになった今の時代、知識は必要な時に都度集めて表現の材料とするものです。教師も、知識を持っている人がえらいのではないというスタンスであるべきです(横濱先生)」

徳学園は、以前からとにかくやってみる、という姿勢に溢れた学校だそうです。修学旅行の企画やスケジュールの管理なども、長年生徒主体で進めてきたそうです。その雰囲気はもちろん先生方の中にもあります。先生方が新しいことにチャレンジし、その姿勢を生徒に見せる、ということも、生徒さん達によって良い学びの環境になるんだなと、お話を伺って感じました。

 

聖徳学園のSTEAM教育

STEAM教育とは、理系教育をベースとした教科横断、融合型の教育、STEM教育(ScienceTechnologyEngineeringMathematicの頭文字を取ったもの)をベースとし、そこにArt(創造性)を加えた、新しい学びのスタイルです。聖徳学園では、情報、ICT系の授業が教科の横断、融合の中心になっていることが、今回お話をうかがってよくわかりましたし、正解が存在せず、生徒さんが試行錯誤をしながら取り組む課題や、何かを1から作り上げたり、人に伝えるための表現力を身に着ける授業、そして、先生方の生徒さんたちの支援の仕方が、生徒さんたちの創造性を育くんでいることを感じました。このような聖徳学園のSTEAM教育が、今後どのように展開されていくのか、とても楽しみです。

仏教主義学校連盟 弁論大会で感じた、言葉の持つ力

みなさまこんにちは。私学妙案研究所の清水です。
2018 年 11 月 22 日、東京都大田区にある、立正大学付属立正中学校・高等学校で開催された、「仏教主義学校連盟弁論大会」を見学させていただきました。

仏教主義学校連盟弁論大会とは、仏教の精神を建学の理念とする学校の代表者(中学生、高校生)が集まり、弁論を行うというものです。毎年この時期に行われ、今回で 35 回目を迎えます。つまり、35 年の歴史がある大会です。

今回は、13 校 25 名の生徒さんたちが弁論を行いました。時間は 1 人5分、テーマはそれぞれが設定します。プロジェクター、配布資料の使用は一切なく、声だけでの発表、審査が行われました。

このような雰囲気で会が進行します。司会は、立正大学付属立正中学校・高等学校の放送部の生徒さん達が担当されました。

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会場の様子

参加 13 校は、以下です。(発表順)
淑徳巣鴨高等学校/駒込中学校/鶴見大学附属高等学校/芝高等学校/横浜清風高等学校/千代田女学園中学校/立正大学付属立正中学校・高等学校/聖徳学園中学校・高等学校/東京立正中学校・高等学校/宝仙学園中学校・高等学校/駒沢学園女子中学校・高等学校/世田谷学園高等学校/淑徳高等学校

 

扱われたテーマは、命、心、生き方に関することが多かったです。
発表のスタイルとしては、

・弁論大会という機会を用い、広く伝えたいことを話す
・興味があったことを調べ、発見やそれについての意見を共有する
・自身の将来の夢や生き方について話す

の3つに分類されるように感じました。

今回1位を獲得した立正大学付属立正中学校3年生の田中里奈さんは、「保護犬たちの目に燈し火を」というタイトルで弁論をおこないました。自身が保護犬の譲渡会に行き、保護犬を譲り受けた経験から、保護権について調べ始め、保護犬の殺処分を減らすには、現状を伝え、より多くの人たちに保護犬を引き取ろうと思ってもらうことが大切だという結論に達し、この弁論大会で訴えることにしたそうです。その弁論はとても力強いもので、一言ひとことが、聴衆者の胸に響きました。

 

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立正大学付属立正中学校の田中里奈さん

発見や疑問を中心とした弁論には、日本で使われる生き物の分類「在来種」と「外来種」とはいったい何か、を入り口とし、生き物の命について考えるという弁論や、タバコをやめられない人にどういう情報を提供すると効果的かについての弁論がありました。

また、生き方については、小学生の時にお世話になったバスケットボールのコーチが、子ども達に嫌われてでも子ども達が成長できる環境を提供するという姿勢から学んだことについての弁論や、親友を病気で亡くし、それをきっかけに自分の将来の目標を見つけた、という弁論などがありました。

命や心といったテーマは、大人になるとその難しさゆえについ目を背けたり、明言を避ける傾向にあります。田中さんを含め、今回登壇された生徒さんたちは、自分の気持ちにまっすぐ向き合い、それを伝えたいという姿勢で弁論をされていました。弁論大会に向けてだけでなく、毎日の生活でこういったテーマについて考えていなければ、なかなか今回見せていただいたような論にはならないと思います。仏教の精神を建学の理念とする学校の弁論大会だからこそ、こういったテーマについて考え、伝えられることがあるのではないかと感じました。

また、投影資料無しでどのくらい伝わるのかと、開始前は少し不安に思っていましたが、声のトーンを使い分けながら表現豊かに弁論される生徒さん達を見て、言葉だけでもたくさんのことが伝わる、そして、言葉だけだからこそ、伝わりやすいこともあるということを学びました。

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終了時刻にはすっかり暗くなっていましたが、とても良いものを見せていただいたので、心は明るかったです。

見学をさせていただき、ありがとうございました。

学びの中心! 富士見中学校・高等学校のラーニングハブ

みなさまこんにちは。私学妙案研究所の清水です。

先日、東京都練馬区にある、富士見中学校・高等学校にうかがいました。

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富士見中学校・高等学校は、2020年の創立80周年に向け、中学・高校校舎の建替え、教育環境の整備が行われています。その一環として、図書館もその使い方も含めて再検討をされ、今年(2018年)の9月に「Learning Hub(ラーニングハブ)」としてリニューアルオープンしました。校舎全体もとても明るい雰囲気ですが、こちらの図書館も、開放的で、カフェのようです。

 

ラーニングハブを見学させていただくとともに、空間構成、図書配置、家具の選定など、全体に関わられた司書教諭の宗愛子先生にお話を伺いました。

 

まずは空間構成について、館内に掲示されていたマップを使って解説させていただきます。

ラーニングハブは、2階から3階の二層ににわたり、階段でつながっています。

どちらにも書架と、読書・学習スペースがありますが、置かれている家具が少し異なります。

 

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3階の入り口から見たところです。

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カフェのような雰囲気ですね。手前の机と奥の机で高さが異なっていて、自分に合った場所を見つけられそうです。重い雰囲気にならないよう、床の色の明るさにもこだわりがあるそうです。

書架の手前には、ソファーとカウンターを組み合わせた家具があります。

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そして、天井にはプロジェクターがセットされていて、スクリーンを引き出すと、ミニレクチャーやプレゼンテーションができるようになっています。

このソファの角度が、お互いリラックスして座れるそうです。

 

放課後、このスペースで自習をする生徒さんたちもいるそうですが、話してはいけないというルールはなく、生徒さんたちは思い思いの使いかたをしているそうです。校舎内には他に自習室があるため、黙って集中したい生徒さんはそちらで勉強するそうですよ。

 

2階には、可動式のテーブルと椅子があり、1クラス分の授業ができます。

見学させていただいた際は、クラブ活動でのグループワークが行われていました。テーブルごとにホワイトボードがあるのは、使い勝手がよさそうですね。

机と椅子を完全に壁側に寄せて使うこともできます。先日は、国語の授業で竹取物語の劇が行われたそうです。

 

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季節の本のコーナー、アートのコーナ、本の福袋などがあり、生徒さんたちが本に興味を持つきっかけがたくさん準備されていると感じました。

 

ラーニングハブは、放課後だけでなく、授業中もよく使われます。

富士見中学校の探究プログラムは、「課題設定」、「情報の収集」、「整理・分析」「まとめ・表現」の力を、3年間でつけていきます。調べたり、文章を書いたりする機会が多くあり、宗先生がサポート、アドバイスをされるそうです。たとえば資料を読みこむことを目的とするか、調べる力をつけることを目的とするかで、宗先生の準備のされ方も変わってくるそうです。中1、中2の生徒さんたちが探究の結果をまとめた冊子を見せていただいたのですが、様々な資料を参照し、わかりやすくまとめられていることに驚きました。

 

その他の教科についても、図書館を活用するシーンは多くあり、教科の先生と、宗先生が相談をしながら授業をつくられるそうです。まさに図書館 、そして宗先生が学びの中心、ラーニングハブですね!

 

図書館とはいえ、本が主役なのではなく、生徒が、そして生徒の学びが主役であるべきなんだな、とお話を伺いながら、感じました。

見学をさせていただき、ありがとうございました。

 

生徒がアーティストの作品を紹介する、富士見丘中学校・武蔵野美術大学「Feeling展」

 

みなさまこんにちは。私学妙案研究所の清水です。先日(2018年11月23日)、東京都渋谷区にある富士見丘中学校で行われた、武蔵野美術大学と共同開催の「Feeling展」を見学させていただきました。富士見丘中学校・高等学校の中学1年生~3年生と、高校2年生で行われている探究学習「自主研究5×2」の一環で、中学2年生の生徒さんたちが、武蔵野美術大学の学生およびプロのアーティストの作品と、キュレーションについて半年かけて学び、来場者に作品の解説を行うというアートイベントです。

 

 

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6回の授業で、武蔵野美術大学を訪問し、アートについて学び、アートの制作現場を見たり、美術館の学芸員の方に講義を受けたりしながらアートの知識を深めていきます。また、数名ずつのグループに分かれ、解説を担当するアーティストとのコミュニケーションを行い、作品についての情報を集めます。また、展示会場のレイアウトやおもてなしの方法の検討も行います。

 

全体のキュレーション、アーティストの選定は、武蔵野美術大学 芸術文化学科教授の杉浦幸子先生がつとめられます。

 

当日の会場の様子です。

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日本画、写真、油絵など色々な作品を、それぞれ担当の生徒さんたちが解説してくれました。解説を聞くことで、作品自体にも発見があるのですが、特に面白かったのは、その作品にまつわるエピソードです。例えば、あるアーティストが動物の絵を描くために、何度も特定の動物園に見にいくこと、あるアーティストが絵をあえて未完成にしておく理由など、アーティストの人物像が見えてくるようなお話を色々とうかがうことができました。これは生徒さん達がアーティスト本人から直接話を聞いているからこそ、親近感を持って語れるのだと感じました。アーティストの方達も、生徒さんたちの素朴な疑問や感想が、刺激になるということでした。

 

作品制作に使われている画材の展示コーナーや、映像コーナーもあります。

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生徒さんたちによるお茶のサービスや、感想の展示コーナーも素敵でした。

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生徒さん達を通してアートを身近に感じることができる、とても楽しいイベントでした。見学させていただき、ありがとうございました。